月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “大忙しがやって来る”


早いもので、もうカレンダーは最後の一枚。
いつまでも暑い秋だったせいか、
余計に いきなりやって来た観のある冬の初めで。
また衣替えが終わってなかったのにと、
慌てて ゆにくろのライトダウンとか ひーとてっくとか、
とりあえずと買いに走ってる人も多いらしい。
俺らもサ、
制服に何を合わせてたかなって、
なかなか思い出せなくて
ちっと わたわたしちまったぞ、まったくよ。
ベストはともかく、セーターはまだ早いし、
マフラーも早くね?とか思ったけど、
母ちゃんが“暑けりゃ外せばいいでしょ”って。
持ってってなくて寒い想いするよりマシでしょってって、
だから持ってけってうるさくて。
そしたら なんの、朝もだけど帰るときもないとサブくてサ。
さすがだわ、母ちゃん。年の功だよなぁ。

 「…お前それ、義姉さんには言うなよな。」

彼にすれば叔父の嫁にあたる人なので厳密には叔母さんなのだが、
何故だか“お義姉さん”と呼ぶものだから。
一瞬、???と目を見張り、それから“…ああそっか”と、
いちいち ちょっと思い出す“間”の要る、物覚えの悪い従弟の坊やと、
果たしてどっちが悪いのだろか。

 「つか、お前、なに珍しいことしてるかな。」

バイト先の売り場にて、客足が空いた隙を見ちゃあ
ルーズリーフに丸っこい字で書き出した、
数式やら化学式やらを眺めては、胸元へ伏せて暗記しているようであり。
どう見たって“お勉強”の一環らしいの、
怪訝に思ったらしい金髪のお兄さんの言いようへ、

 「学生らしいことして何が悪い。」

どうせ“珍しい”ことだろよ#と、
ぷうと膨れた坊っちゃんが何とも可愛くて、
サンジがくくっと笑ったのも無理はなく。

 「そか、もうすぐ期末試験か。」

高校でのお勉強は義務教育ではないので、
試験で及第点を取れないと最悪 留年、
そこまで運ばずとも、
補填を兼ねての補習に出ておいでと強制されて、
夏休みや冬休みを削られる恐れがある。

 「そうまでして休みをエンジョイしたいかねぇ。」
 「当たり前だろ。」

近所の輸入家具センター内でイートインを任されておいでのお兄さん。
サラダやサンドイッチ用の野菜の仕入れに来たそのついで、
可愛い身内のお顔を見て行くべえと立ち寄ったらしく。
サニーレタスやサラダ菜、水菜などを入れた
お買い上げカゴを片手へ提げたまま、
器用にも片手だけで、たばこを咥え、火を点けてから、

 「そうは言うが、
  どっか出掛けるワケでもねぇだろ。」
 「う…。」
 「ここでのバイト三昧になんじゃねぇの?」
 「いいい、いいじゃんか、そんなんどうでもっ。/////////」

サンジには関係ないだろっと、

 “真っ赤になって吠えられてもなぁ。”

第一、そんなに及第点がほしいなら、
何でバイトを休まないのだろ。
よく覚えちゃあいないが、
確か12月に入ってすぐか第2週辺りから始まるのだろうから、
そのためだと言えば休ませてもらえもしように。

 “いくら売れっ子バイトでも、
  学業優先は妨害出来んだろし。”

つか、店側にしても今 休んでもらった方が、
クリスマスじゃ年末じゃに出て来れないよりずっとマシだろうし、
そのくらいは毎年のことなのだから、
あの店長がうっかり忘れていても(笑)
副店長さんがしっかとフォローしてくれように。
そこがどうにも判らんと、
からかいっこ抜きで訊いたところ、

 「………いいじゃんか、どうでも。//////」
 「お…。」

そういう可愛くねぇ態度する奴には、
差し入れやらんぞと、
お買い上げカゴへ居候させてたボール紙の箱を持ち上げるサンジであり。
家具センターのロゴと、横文字の店名が入ったそれは、
サンジが雇われマスターを担っておいでの
カウンターグリルのテイクアウト用のもの。

 「う…。もしかしてチキンサンドか?」
 「おうよ。それとスパイしーポテトフライのセットだぞ。」
 「ううう…。」

坊やの好物くらい把握してますと、
余裕のお顔のお兄さんに、そうそう敵おうはずもなく。
休憩して下さいと、
バイトの後輩さんが交替に駆けて来たのを見やってのこと、
しゃあねぇなぁと肩を落とした坊ちゃんだったが、

  だからさ、冬休みもバイトしたいのと、
  でもな、向こうの予定を訊いてなかったから…。/////

視線を泳がせの、落ち着きなさ過ぎのと、
挙動不審の見本のような有り様で、
それでも差し入れは がっつり頬張りつつ
ルフィ坊ちゃんが言うには、あのね?

 『クリスマスケーキかぁ。俺は生クリームのが好きだな。』

こちらの店でも、一応は既製品のを並べるし、
予約も受け付ける旨のポスターが張られており。
それを見やったルフィが無邪気に語ったところ、
休憩が一緒で食堂で一緒した、背ぃ高のっぽな剣道青年も、

 『そうっスね。ウチもずっとこっちだな。』

チョコクリームのとフルーツタルト仕様のと、
3種類の写真が並ぶ中、
ゾロもまた、生クリームで飾った上へイチゴの載った
スタンダードなケーキを指差したのだが、

 『でも、ここんとこは縁がないままっスね。』
 『え?』

まさか、サンタさんを信じなくなったらケーキもなしにされるのか?と、
何でそうなるのか、微妙な理屈を持ち出すルフィに
それこそ“は?”とキョトンとしてから、

 『いや、俺自身があんまりクリスマスに家にいないんスよ。』

通ってる道場のほうの年末のあれこれへ駆り出されることが多くて、
冬休み自体がないも同然、

 『去年こそ此処でのバイトに出て来れたっスけど、
  今年はどうだろう。』

まだ予定がはっきりしていないという口ぶりだったそうで。

 「そういや俺、ゾロのケー番もメアドも知らねぇし。」
 「えっっ?」

そんな驚くことかよと、
バッと勢いよく振り向いたサンジへ、
ますますのこと頬を膨らませたルフィだったが、

 “そんだけ仲よくて、何で訊いとかないかな。”

つか そこまで意識してんのか、まいったねこりゃ、と。
ただの友達なら何の意識もなく出来ることに限って
こうまで踏み切れてないことへ、
おいおい おいおいと、苦笑が絶えないお兄さんだったりし。

 「そか。
  それで、少しでも逢う機会を逃すまいと
  ギリギリまでバイトしとんだな。」

 「う…うん。///////」

 まあぁ、なんて健気なんだか、シャンクスに訊けばいいのによ。
 個人情報だぞ、訊けたってもゾロが変に思うじゃんかよ。
 ほほぉ、叔父貴は言うかもってトコはスルーなんだな、と。
 聞く人が聞いたら大爆笑なやりとりだったが、

 「…あの。もしかしてそれ、俺が言った方がいいことっスか?」

  「…っ☆」 × 2

あんまり似てない従兄弟同士、揃ってどっひゃあと肩をすくめた。
出勤して来て談話室を覗いたら、
見覚えのあるお兄さんと一緒の先輩を見つけ、
声をかけるかどうか逡巡しておれば…なんだか自分のことらしい話題で、
ますますのこと どうしよっかと迷ってたらしい、
噂の主こと、ロロノアさんチのゾロくんの登場であり。

 「…じゃあ俺、職場へ帰るから。」
 「あっ、ずりぃぞ、サンジっ!///////」

いや俺が居残ってどうなるもんでもなしと、
照れまくりの坊やを残し、職場へ戻ったお兄さんのスマホへ、

 【 クリスマスも年末も一緒出来るってvvv】

だから何でそこへハートマークの乱舞かと、
苦笑が止まらないメールが届くまで、あと小半時ほど……。





   〜Fine〜  2013.11.27.


  *学生さんはいろんな試験の本番も近いんですよね。
   お勉強も大事ですが、体調管理も気をつけてね。
   今年は乱高下ひどかったその集大成みたいに、
   冬も極寒な上、急な寒波が来るらしいし。
   クリスマスは息抜き、年末はよく寝て、
   初詣でで英気を養って、ガンバだ!(まだ早いって・笑)


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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